++Mid Aqua 深海編(サンプル)++

海を 君を 守るため… 1 「しっかりしろ!イエロー!」 吊された糸が切れたようにその場に崩れたイエロー。 咄嗟にレッドが彼女を抱き起こし懸命に呼び掛けるが、 瞼は閉じられたまま何の反応も示さない。緊張が走った。 「誰かいないか!?医術者は…!」 「落ち着いて」 背中を軽く叩かれた後ブルーが隣に屈み込み、前髪をよけるようイエローの輪郭を撫でた。 黙って見つめていたら、イエローの小ぶりな唇から一定の寝息が漏れてくる。 「あ…」 やがてそれはスヤスヤといったものになり、 何とも無さそうな呼吸にレッドの肩から力が抜けていく。 安堵してゆっくり緊張を吐き出した。 「ありがとう、寝かせてあげて」 陽色の前髪を優しく撫で、ブルーは目を細めた。 安らかな眠りにつく彼女に胸の内で語りかける。 頑張ったわね、イエロー。 「おい」 斜め後方からの鋭い声が柔らかい空気を一変し、ブルーはめんどくさげに気持ちを切り替えると、 眉尻を持ち上げ立ち上がった。 緑の二粒が解りやすいくらいこちらを睨みつけている。 「説明してもらおうか」 「勿論そのつもりよ、隊長さん」 アクアリウムは船を包んだまま一定の方角へ進んでいく。 嵐のせいで届く光も無く辺り一帯暗闇で、船で灯す明かりが唯一の光源だった。 光玉をひとつ夜に投げ落としたように、目映い尾を引きながら海流に乗りユルリと流れていく船。 こんなに潜っているのに、全く生き物を見かけないことが凄く違和感で、 エメラルドとルビーは窓の外ばかりを見つめていた。 通されたのは海賊船の中、テーブルのあるその場所に大人数は手狭だったが、 荒れまくった甲板よりはいくらかマシだった。 テーブルにそれぞれのリーダーが向かいあって座り、 ブルーの後ろにはゴールドとサファイアが立ち、 グリーンの左隣にレッドが席について、背後にルビーとエメラルドが立った。 レッド側のサイドにはお嬢様―プラチナ―が腰掛け、 ダイヤとパールは付き従うよう寄り添っている。 イエローはシルバーに抱えられ寝室に運ばれクリスもそれに付き添ったが、 二人が戻る前にブルーはザッと部屋を見回して、最後に緑の目を正面に口を開いた。 「まず、アタシたちはあなた方海護神隊を捕らえた訳でなく、  招き入れたということを明らかにしておくわ」 「招き入れた?」 心外と怪訝で跳ねた眉がつり上がったままの形で固定され、イケメンが台無しね、 と余裕のないグリーンと対称的にブルーは肩の力を抜いた。そして観察する。 愚直で真っ直ぐな人のようだ。冷静に見えてかなり熱い。 案外すんなり話は通るのではないか。 机の上で手を組み、うっすらと唇に笑みが浮かんだ。 「ええ、招き入れた。ベルリッツ嬢の発案でね。  あなたたち海護神隊の十四番隊なら、必ずアタシたちを理解してくれると」 相手から見て左手にブルーは手をかざし、動きに合わせグリーンも視線を移動した。 プラチナは黙ったまま、しかしはっきりと頷き、その零れるほど大きな瞳の澄んだ色に、偽りではないと理解する。 グリーンは再び正面を向いた。 「…お前たちは何者だ?」 イエローの自室は彼女自身が大暴れした上に、ダイヤとパールがグローブと戦闘したのもあって、 とてもじゃないが人を休ませられる状態ではなかった。 シルバーは彼女の部屋の前を通り過ぎ、ブルーの部屋にイエローを運んだ。 クリスは下ろされた彼女の体勢を整え、綺麗に布団をかけたあと、膝をついて彼女を覗きこんだ。 これはしばらく起きないだろう。 穏やかだが、深い眠りについているのがよく解る。 ずっと…ずっと一人にして申し訳ないと、彼女の手を取った。 「荒れ方は、彼女が一番酷かった」 クリスが問う前にシルバーが投げかけてき、振り返らず、返事もせず、沈黙で続きを促した。 「自分が仕える聖女も白波の泡玉も失って、  日に日に精神を蝕む世界になんとか耐えていたぞ」 「…そう」 「…お前はどうだった?」 その問いにもう一度、握った手に力を込めると、 布団にそれをしまい立ち上がったが、やはりまだイエローを見ていた。 「わたしは、何も感じてなかった」 「…そうか」 「今、得体の知れない何かが体内で暴れている。いえ、頭の中かしら?  あの嵐のような轟音が耳鳴りのようにこびり付いて離れないのに、  シルバーたちの声はちゃんと聞こえるわ。怖いくらいよ」 こんな状態を、わたしと分かつ分を全部背負ってくれていたなんて…。 「イエローさん…ごめんなさい」 何者だという問いに、ブルーは一瞬言葉を詰まらせた。 本当に話しても良いのだろうか?こんな、言うなれば敵である人間に。 お嬢様の考え、みんなの気持ちに折れて賛成した。 後ろに立つゴールドとサファイアに目配せする。 二人はしっかり頷いた。 本当に、良いのね。 「アタシたちは、海の民“ミュート”」 「海の民?」 グリーンはこちらから目を放さなかったが、 レッドは眉をひそめた後、ルビーやエメラルドを振り返った。 しかし二人は知らないと首を振る。ルビーがダイヤとパールを見たが、全く同じ反応をした。 無理もない。海の民の存在など陸の民が知るわけないのだから。 「あなたたちの言葉では海底人や人魚といった方がわかりやすいかしら?」 「海底…っ、人魚!?」 ひっくり返った声をあげたのはレッド。 周りもポカンと口を開け、誰も彼も、マヌケな顔だった。 「オレたちをたばかるつもりか?」 「あら、心外ね。本当よ?  あなたのガチガチ頭と狭い見解で世界の全てが解ると思って?」 「ブルーさん、喧嘩売らないで下さい」 うるさいわねゴールド、だってコイツ頭にくるんだもの! 喉まで出掛かった台詞を飲み込んで、ブルーは右手を数秒上げるとグリーンに差し出した。 「触って」 「は?」 「すぐに解るわ」 海の民“ミュート”は生物学上では他の人間となんら変わりない。 だが、それは陸での話。 海中にいたら、体からの分泌液が全身を纏い、水の抵抗を軽減させ、魚同然に泳ぐことができる。 その時の皮膚の感触は形の崩れない水のようだと言われている。 差し出された手の白さと細さに行動仕切れずにいると、 痺れを切らしたブルーの方がグリーンの手を取った。 「!?」 初めての…人とは思えない感触に息を呑み、今度はグリーンの方がその手を握った。 今にも砕けて消えそうな、水とも泡とも取れる手触り。 世界の広さに圧倒されつつ、手を離す。 液体でも触っていた心地なのに、自分の手が濡れてなくて違和感があった。 まじまじと見つめた手を下ろし、視線を戻す。 「理解した、信じよう」 「じゃあ、しばらく黙って聞いてもらえると助かるわ」 何から話すかと、ブルーはひとつ天井を仰いだ。

++つづく++ ついに面と向かって話を始める主人公たち。 謎が解明されつつ、お互いに歩み寄れるのか。 互いのこと、世界のことを知っていきながら、巨大な力に立ち向かっていく 展開になっていきます。 気になる方はぜひ!




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