++Mid Aqua(サンプル)++

   プロローグ 海を 君を 守るため… ゴゴゴゴゴ…… 崩れる建物。飛び散る瓦礫。珊瑚礁や海底岩で出来た白い石柱が黒煙を上げる。 力の源を失った海底の国。国を囲んでいた空気のドームが海水の重さにひしゃげ、 脆い所から穴が開き、勢いよく滝となって降ってくる。煙を砕き、街を飲み込む。 太い太い水の槍は行く手を阻むほどに何本も、絶望と共にその国を貫いた。 誰もが直感していた。 国は…滅ぶ…。 ――なぜ、どうしてこんなことを… 「イヤァァァ!!パパァ!ママァ!」 人々が流され、死んでゆく中、街の一番小高い珊瑚の丘で、巨大なカプセルに子供が数人乗っていた。 四人の少女と一人の少年。 泣き叫びカプセルを叩きつける亜麻色髪の少女と、彼女を必死で止める赤毛の少年。 陽色の髪と碧瑠璃の髪の少女は気絶していた。 亜麻色髪の少女に母親が叫ぶ。 「生きなさいブルー!」 「やだぁ!ヤダァァ!パパァ!ママァ!」 「シルバー!ブルーを頼んだぞ!」 少年はむせぶのを堪え、めちゃくちゃに頷いた。そしてカプセルは動きだす。 海上に向かって…。 離れていく両親。声ももう届かない。必死に呼び続ける少女。 そんな別れすら打ち砕くように、天井から滝が降り、視界を全て遮った。 「ッ…イヤァァァァァァァァァ!!」 悲しみに少女は髪を振り乱し気を失った。その衝撃で碧瑠璃色の髪の少女が目を覚ます。 「ッ!!」 視界を覆う絶望に透明な瞳孔が割れたようにすら思えた。 そして周りを見渡す。誰かを探して。 「ゴー…ルド…」 少女の呟きで赤毛の少年に悪寒が走る。 「ゴールド!!」 「ダメだクリス!!」 飛び立たんとす彼女を少年は羽交い締めた。 「離してシルバー!ゴールドが!!」 「これには守護(サネ)しか乗れないんだ!!」 「離して!!」 彼女の内側から発した波動に少年は飛ばされ、その隙に少女は無理やり カプセルをこじ開け瓦礫と煙が泳ぐ街に飛び込んだ。 そして魚のように抵抗なく泳ぎ、ある場所を真っ直ぐ目指す。 ――ゴールド! 守り岩。そう呼ばれ親しまれた巨大な一枚岩の下。 掟を破った彼はまだあそこに繋がれているはず! 「ゴールドォ!」 呼びかけても返事はない。もう水は二十メートルの岩を半分隠すほど国を呑み込んでいた。 彼女はひときわ息を吸うと、垂直に潜り込む。 「!」 彼はいた。混乱の中、誰からも忘れられ岩に括りつけられたまま。 涙が海に溶けていく。 ああ、ああ…どうか生きていて。 少女は辿り着くと彼にありったけの息を注ぎ込んだ。 ピクッと僅かな反応。気のせいではない。 鎖をほどき彼を抱え高くなった水面へ一気に登っていった。 「ぷはっ!」 「ゴホッ…ゴホッ…」 腕で彼が水を吐く。意識はないが大丈夫だ。安心すると彼を一段と抱きしめた。 「クリス!」 「シルバー!」 カプセルがこちらへと向かってくる。こじ開けた穴から抱えていた彼を運び入れた。 「お前と長く居たせいかもな」 「え?」 「言ったろう?この船には守護(サネ)しか乗れないはずなんだ…」 「あ…」 愛しい少年はしっかりとカプセルの内側に身を預けていた。 少女はどこか嬉しくてにっこりと微笑む。 「さぁ、クリスも早く…」 とたん、 空気のドームに限界が訪れ、かろうじて持ちこたえていた空間が一気に海水に呑み込まれた。 「キャァァァァ!!」 「クリスーーーーー!!」 引き離されていく。四方八方に渦を巻き、上も下もなくなった荒波には彼女でも逆らえなかった。 「クリス!クリスーーーー!!」 親友の声を遠くに、少女はそのまま海に消えていった。 終わりから始まる物語。 海を… 君を… 守るため…      荒れ狂う海中。 滅んだ故郷。 四方八方に渦が混乱し、瓦礫と共にもみくちゃにされる中、 わたしなんかの命より 貴方の無事を祈ってた… ―1年後― 海に浮かぶ人口一万人程度の小さな島。 とある国の離れ小島で一人の領主によって統括されている、よくある田舎だ。 一番小高い山の頂が島の中心よりも東側にあり、木々の隙間から石造りの屋敷が 夏の光を浴びている。おそらく領主のものだろう。丁寧に切り取られ組まれた平 らな壁は真白く照り、屋根の群青色とコントラストを見事に演出していた。 屋敷の正面、屋根の中心には家紋の代わりに国のシンボルが埋め込まれている。 ヒレを翼にした大槍で海を絡め取っている巨人。 海神(うみがみ)、国はそれをこう呼んでいた。 山の麓に下るに連れて、建物が少しずつ増えていく。石造りには変わりないが、 屋敷と違って建て方に凹凸があり海風に風化した表面には砂埃が付着し、どこか黄土色に見える。 屋根といったものは特になく、壁と同じ材質を地面と平行に組んで天井にしていた。 建物は基本二階建の四角柱が並んでいたが、一階建、三階建、大中小と 街の中心に行くほどにランダムに、そして、活気になっていった。 「いらっしゃい!いらっしゃい!今朝穫れたばかりの新鮮なものだよ!」 「朝食まだなんじゃないかい?寄ってきな!」 客を引き込む声の間を多くの人が行き交う。カップル、家族、駆けていく子供… 酔いつぶれ朝を迎えた旦那を迎えにくるような姿も。 色とりどりの布や看板が通りを彩り、笑い声が場を華やかにする。 個性豊かな店の陳列でただ一つの共通点は、あの海神。必ず店にも家庭にも飾ってある。 旗、彫刻、タペストリー、形は様々だが、至る所で目にできた。国の信仰深さが伺える。 そんな大通りを、人を縫って走る者が一人。 空を指した黒髪の下に赤い目を揺らした、青年に近付きつつある少年。 「おぅ!レッド!」 「買ってけよ副隊長!」 「レッド〜こないだのツケ〜」 至る所からかけられる声にも足を止めずに抜けていく。 「ごめん!悪い!また今度!」 慌てた様子をからかうように笑いが後方から起こり、思わず失笑。 だが時計屋の前で青ざめる。完全に遅刻だ。青筋立てた隊長の、緑の眼光が目に浮かぶ。 時間管理は自己責任。しかし、起こさずに出掛けた同居人を恨まずにはいられない。 「あ〜もう!朝からどこ行ったんだよ〜!?  クリスーーーーー!!」 島の南西に位置する崖。海を一望できるその場所には朽ちた神殿があった。 神殿と言っても吹きさらしで、円を描いた八本の柱の中心に祭殿があるだけの造りだが。 昔は立派であったろうこの場所も、今は柱が折れ、倒れ、祭殿は傾き、ツタやコケがはびこっていた。 数年間、人の手が加わった形跡がない。 海神を祀る社は十年ほど前に屋敷と街の間に新しく建造されており、 丘を登り森を抜けてやっと来れる立地条件の悪いここには、めったに人の姿はないのだ。 一年前までは。 折れた柱に腰を据え、海をただ黙って眺める少女の姿は、この島では珍しいことではなくなっていた。 ツインテールを潮風に靡かせ、透明な瞳に青を反射させた少女。 クリスタルことクリス。 彼女は詰め襟のかっちりした上着とタイトなスカートにかかとの厚いブーツを履いていた。 服は群青、ブーツは焦げ茶。全体的に重く堅いイメージの格好。 その中で陽を反射してキラリと光るものに目がいく。 フォークの先のような飾りが施されている襟のフック。海神の大槍をモチーフにしたもの。 島で知らない者などいない。 『海護神隊(かいごしんたい)』隊員の証しだ。 「遅い!」 ギンッと緑の眼光が予想以上に身を刺し貫き、レッドは大きく肩をすくめた。 ここは海護神隊施設。南に位置する港に隣接された、島で最も大きな建造物だ。 他と違いコンクリートで固められた厚い壁の中では、海神と領主に忠誠を誓った 選び抜かれた人間たちが、島と海を守るため、日々鍛錬に、警護に務めている。 人口の五パーセント、主に若者が所属しており、全部で十四の部隊を編成しているのだが、 しおしおとしているこのレッドはこれでも十四番隊の副隊長だったりする。 レッドは自分と歳の変わらぬ隊長に小さくなりながらも口答えした。 「だってクリスが起こしてくんなくて…」 「ガキか十八にもなって!  第一『互いの寝室に入らない』というルールを作ったのはお前だろ!」 「でもさグリーン、もう一年も一緒に住んでんだから…」 「くどい!」 遂に黙るレッド。その後ろでヤレヤレ顔を揃えている二人の少年。 翠の瞳は興味なさげに、紅の瞳は我関せずと顔を背けていた。 「さっさと身なりを整えろ。副隊長がそんなんじゃ十四番隊の名が汚れる」 「…いえっさ〜」 そのまま移動を始める。後ろの二人も腰を上げた。 灰色の壁にゴム絨毯、ステンレスの手すりだけといった簡素な廊下を進みながら、 レッドは群青色の上着の前をしめ、乱れた髪を手櫛で整えた。 「はい」 「お!サンキュールビー!」 横から突き出された手鏡を覗き微調整。 「勲章歪んでるよ、副隊長」 「はいはい、エメラルド」 口出ししたのは、裾がやけに長い格好をした翠の少年。 レッドは左胸にある副隊長の証をクイッと正位置に戻し何となしに言った。 「お前はいいのその格好?」 「どーゆー意味?」 ギロリ睨まれ口を噤む。彼は異様に背が低い。 そのままの身長でいたら蹴飛ばされるのではないかというほどに。 従って靴は竹馬と名の付いたスーパーシークレットブーツ、制服もそれに合わせて全て特注だ。 そう、 「特注ってことは許可が下りてんだよな、良いんだよな」 「フンッ」 エメラルドがそっぽ向くのと、ルビーが鏡を閉じるのは同時だった。 「お喋りはその辺にしておけ。今日は海護神隊統括者にして我らが領主、  ベルリッツ公から直々に命を頂くのだからな」 グリーンの一括にレッドは弓形の眉をキリッと持ち上げ力強く頷いた。 「ああ!」 目前の巨大な扉を開くと、空間が開けた。海護神隊施設と領主の屋敷は地下で繋がっており、 領主から直に指令が下される時は中間地点にあるこの広間に来ることになっているのだが、 この場所を知っている隊員自体が実力を認められた者のみで数える程しかいない。 入り口から見て最奥には壁から半円に突き出した高さ三メートル弱の階段があり、 その上には縦長い椅子にどっかりと腰を据えた迫力のある初老の姿が。 金がかったシルバーブロンドの髪を緩やかに巻き上げアメジストの瞳は怪しく揺らめいている。 エンジの服を金糸で彩り、埋め込まれた胸元の宝石が暗がりに眩しい。 左手の指輪にある巨大な金剛石で頬なでるその癖は、初めて会う訳でもないのに固唾を飲ませた。 領主の隣りには少女が立っていた。花びらを紡いだような薄紅色のドレスに身を包み、 高貴な立ち振る舞いは遠目にも誰だか判別できる。領主の娘、名は明かされてない。 通称お嬢様。 開いた胸元に光る珠があるが、アクセサリーではない。一年前に取り戻したという家宝で、 珠を守るために特殊な力で体内にその半分を埋め込んでいるらしい。 どこか悪趣味にも思うがそれ程大切なものなのだろう。一度盗まれているのだから。 四人は領主の顔がはっきり見えるまで近付くと、跪き頭を下げた。 「海護神隊十四番隊。参りました」 「うむ…」 グリーンの声に領主は僅かに身を起こした。 紫の瞳にで輪郭をなぞるように四人を見つめると倍の重力がかかったような太い声を発した。 「今日お前たちを呼び出したのは、我が娘が悪夢を見たからでな」 「と、言われますと?」 四人の中グリーンだけがゆっくり顔を上げた。 「娘に僅かだが予知能力があるのは知っておろう?」 「はっ!」 返事に領主は少女を前へと促した。 「話してやれ」 「はい」 お嬢様は一歩踏み出すと高い鈴の声で説明を始めた。 「近々、賊がこの島を襲いに来ます」 「………」 反応が薄い。当然だろう。 この島の近くには海賊の通り道があり、たまに物資強奪にくることもある。 そんな時、海を守る海護神隊が海賊を捕らえ大陸に突き出すことは珍しくはない。 勿論お嬢様もそれは承知し、続けた。 「そして夢で私は命を失いました」 「!?」 一斉に、残り三人の顔も上がった。 「賊の狙いはこの珠です。珠を奪われ命を落とす。そのような夢を見たのです」 白魚の手がそっと胸元にのびた。 領主が再び口を開く。 「察しの通りだ。勿論、娘には別に護衛をつけているが…」 瞬間、誰も居なかったお嬢様の両脇に二人の少年が現れた。 「念には念をというやつだ。珠と娘を守れ。敵の上陸を防ぎ、賊を捕らえろ」 「お待ち下さい!我々のみで、ですか!?」 「当然だろう?珠のこと、娘のことを知るのはこの部屋にいる者のみなのだから」 領主は怪しく笑った。

++つづく++ こんな出だしの物語です。 ベルリッツ公は原作のベルリッツ氏には一切関係ないです(笑) あと、イエローにもうひとつの人格(♂)があります。 これから主人公たちが海賊と海護神隊として出逢っちゃって〜という 展開になっていきます。 気になる方はぜひ!




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